ぽしゃけなおはなし

二十歳になったので酒を飲むことにした。

友人に飯をおごってもらい,その後彼の家でずっとドラクエⅪを横から眺め,そして2時半になってようやく帰るとなった時にコンビニ*1を見つけた。

さて,店内に入り酒類のコーナーへ向かうと,所狭しというほどではないにしろそれなりの数の酒が並んでいた。ニッカウイスキーや日本酒,反対側の冷蔵棚にはビールや酎ハイ。律儀に法規を守っていたので何もかもが目新しい。そしてどれもこれもおいしくなさそうに見える*2。ではこの集団からなるべくダメージを抑えてアルコール摂取をするにあたって何を飲んでやろうかと考えているとき,ふとアルコール消毒液というワードが脳裏をよぎった。その彗星のように現れた中性子的ななにかは次々と脳内で語群に激突を繰り返し,やがてトップバリュウイスキーという言葉を想起するに至った。

いやいやいやローソンでトップバリュて。と思ったのも束の間,今度はトップバリュという文字がまた別なとこから放出された中性子の衝突によってちぎれ飛び,どっかにいってしまった。かくして自分は知多180ml*3を片手に意気揚々と帰路についたわけである。

 

家に着く。当然誰も起きていない。いや犬は起きていた。というかドアの音で起きた。シャワーを済ませ,瓶を片手に台所へと向かう主人*4をチョロチョロと追いかけてくる。ここで吠えられると面倒なので彼の好物のチーズを与え,黙っておいてもらうことにした。それでも何か期待するようにこちらを見つめてくるので彼の大嫌いな霧吹きをちらつけせてやるとすんなり引き下がって寝床へ帰っていった。何もやらなければ霧吹きでは引き下がってくれない面倒な犬である。実質これが最適解だろう。この時点で3時前である。

さて酒だ。ロックだのハーフロックだのハイボールだのよくわからないがとりあえずウイスキーと炭酸水を混ぜれば飲めるんだろう,と冷蔵庫を覗いたが,肝心の炭酸水が見つからない。シュワチンしたときの残りがあったはずなのにどうしたものか*5しかしないものはないので仕方ない。しぶしぶ近所の自販機まで出向いてサイダーを買ってきた。以前伊達や芋焼酎をこれで割っていたのでまあ大丈夫だろうと考えての行動である。

そしてグラスを3つ出した。ひとつはハーフロック,ひとつはサイダー割り,ひとつはお湯割り用だ。せっかくのウイスキーなのだからたくさん楽しみ方を用意せねば損だろうという貧乏性がはたらいた結果である。

ウイスキーを開封してグラスに注いでいく。薄い琥珀色をした雫が次々と滴り落ち,氷を打つ音が響く。そして最後にはグラスの底へと辿り着き,そこからは水音しか聞こえなくなった。この時点で自分には官能小説の才能が無いことが分かった。ともかくここに適切なものを流し込めば完成なので後は楽なものである。すべて1:1の割合で注いだ。

もうお分かりいただけるとは思うが,ハーフロック以外はそんな飲み方をするようなものではない。サントリーによれば知多の最適な飲み方は1:3.5のハイボールである。明らかにしくじっているが,なにせ酒の知識など殆ど無いのでそれに気づいていない。そしてお湯割りを一口飲んでむせた。当然の帰結である。そしてようやく間違いに気づいたのか多量のサイダーをお湯割りに流し込んだ。何をしているのかさっぱりわからない。絶妙にぬるく,中途半端に甘いその液体を口に入れたとき,果たして自分がなにをしでかしたのかということに思い至った。しかし飲みにくさは一気に解消されていたので流し込んだ。微妙なものを体に入れるならこうするに限る。そして今度はハーフロックに手を付けた。ウイスキーの味なんてわからないがなんかカッコつけられる気はした。そしてこれもすぐ胃に流し込まれたウイスキーの味とはこんなものかということが分かったところでサイダー割りである。先の二つの失敗を鑑み,より多くのサイダーで希釈する手に出た。大体1:3くらいになったところで飲んでみるとこれが飲みやすい。というかほぼジュースのように感じた。*6そして気づくと知多の瓶が空になっていた。そのあと調子に乗って冷蔵庫に入っていた酎ハイも飲んだ。サイダー割り以上にジュースだった。時計を見ると3時20分を指していた。

…あれ?

これやってること一気飲みと変わらなくね?

そう思い至るとまた別なジョッキに水を注ぎこみ,一気に飲み干した。

しばらくして酔い(?)が回ってきた。現実感が無くなり,体が軽くなる。論理的思考力が極端に落ちる。なぜか画面に対する反応は早いままである。こんな状態で運転なんてする気になるやつの神経が分からないと思いつつ,これ以上の波が来るとどうなるのかと怖くも感じた。幸いなことにそれ以上が来ることはなく眠りについたが,翌日地獄を味わうこととなった。体がだるく,吐き気だか吐き気じゃないんだかよくわからない感覚に延々と襲われ続ける。結局回復したのは14時を過ぎてからで,一日の半分を無駄にしてしまった。酔うのはやってみたいと思っていたがこんな症状まで頼んだ覚えはない。結局のところもう少しゆっくり飲むことを覚えなければならないという至極当たり前の教訓を得た。飲みやすい酒も考え物である。

かくして人生初の飲酒というイベントは,失策によるオーバードーズと二日酔いという形で幕を閉じたのであった。そして記憶が飛んでいないあたり少なくとも自分は酒に弱くないということが分かった。けれども他の酒の具合がよくわからない以上,日常的に酒を飲むようなのはまだ先のことになるだろう。ひとまずウイスキーは飲めるらしいので次は日本酒かウオッカにでも手を出してみようとは思う。ということで酒好き各位は情報ください。

 

―おしまい―

*1:秋月律子,またの名を労損

*2:多分周囲の未成年飲酒に嫌気がさしていたから。多少なりとも酒に対する敬遠があったとは思う。

*3:なぜこれを選んだかはあまりよくわかっていない

*4:尤も当人からそう見えているかは不明。普段もめちゃくちゃな要求をされるので下に見られているかもしれない。

*5:後になって発覚したことだが,いつの間にか親父が消費していたらしい。

*6:先の二つがおかしな味をしていたり濃かったりしただけ