ぽしゃけなおはなし2

「二十歳になったから酒を飲む」

という流れからどうしてああなったのかと回想する間もなく9月に突入した。

 

北海道にある大学からインゼミの誘いを受け,意気揚々と太平洋フェリーの特等を発売開始直後に確保したまではよかったものの,台風によってその船が欠航となり,学校のカネで特等に乗るという野望があえなく散ったところから物語は始まる。

結局いま得で12900円というそこそこの値段を西久保カンパニーに貢ぎ,神戸から飛び立ち,そして落ちないことを祈りつつ札幌に降り立ったのが9月の5日のことである。
その日は北広島市役所に寄ってちょっとした撮影のようなことをしてから中華料理店めぐりに向かった。そして酒を飲むこともなくさっさとA5ランク人権ホテルで眠りについたのである。

翌日,起床に見事成功し函館本線の始発をとっつかまえて神威岬へ向かったまではよかったものの,目の前に現れたのは自家用車の大群と観光バスに乗った大量の外国人であった。バスが1日4本の限界観光地であるにもかかわらずこれほど人が多いのはまったくもって想定外のことであった。早々に切り上げて島武意海岸に向かうも同じ有様で,果たしてどうしたものかと考えていたところ,余市の蒸留所の存在が想起された。そうして営業しているのを確認しているうちに,そういえばワインも有名だったと思い,ワイナリーの営業情報を調べたものの休業であったため,ここにおいてニッカのプロパガンダ施設に向かうことは確定的となったのである。

さて,プロパガンダ施設である。タダでウイスキーを飲めるとあって多くの人々が押し寄せていた。試飲自体は15ml×3杯であり,多くもなく少なくもない量である。
そして順路的には前にあるウイスキー博物館ではそれと別の有料の試飲もある。
ウイスキーをキメたことしかない限界野郎は意気揚々と無料試飲へと向かう。明らかに多くの人々が押し寄せていたが,試飲をしているのはグループのうちの数名のみで,大半はリンゴジュースなどを味わっていた。試飲の受付もほぼ人がおらず,係員に誘導されるままにトレーを受け取り席へ向かう。その途上に水や氷や炭酸水などの割り材がおかれているコーナーがあった。ひとまずおすすめ通りに混ぜておけば失敗することはないだろうとグラスの上にかぶせてあった紙製の蓋を覗くと,そこにはおすすめの飲み方とやらが書かれている。

今回試飲するのはスーパーニッカ,ピュアモルト,アップルワインの3種である。ここまで書いておいてなんだがアップルワイン以外は記憶に残っていない。しかしどちらか忘れたものの1:1,トワイスアップというらしいが,これが推奨されていた。“やはり1:1は間違いではなかったのか!!”などどいう妄言はさておき,深夜テンションで飲むのと素面で飲むのとは勝手が違う。というよりもこれは知多とこちらの酒との違いであろうか,あまり口に合う気はしなかった。そしてもう一方は炭酸水で割ることが推奨されていたが水割りにしてしまうという失策をはたらきお釈迦になった。さてアップルワインである。上にかぶさっていた蓋ではロックで飲むことが推奨されていたが,いろいろやっているうちに氷が溶けてしまっていた。しかしそれによって非常に具合の良いアルコール濃度となり,これを一気に飲み干すことができた。

 

試飲は終わった。しかし飲み足りない。これが3度目の飲酒とは思えないような発言だが,せっかく飲めるところにいるのだからもっと試しておきたいというのは人間の性である。

先ほど通ってきたウイスキー博物館に舞い戻り,有料の試飲コーナーへと向かった。暗く照らされたカウンターではふたりのバーテンダーが先客の相手をしていた。見学の客は有料というのを敬遠してか皆素通りしていく。これはなかなか良い傾向である。酒を飲むなら,特に度数の強いものをゆっくりと楽しむなら,人の少ない場所の方が良い。
とはいってもカップルは無限に湧いているので精神によくない。わざわざ有料試飲に来るようなのは私のように偏屈なのか女の前で見栄を張りたいかのどちらかである。
あの場には私を含めて3組いたが,他2組はそれであった。
さて話を戻す。カウンターへと歩を進め,バーテンダーに注文をする。そして代金を支払うと,計量をするための器と思しきものに酒を注ぎ,そこからグラスに移し替え,水とともに寄越してきた。頼んだのはカミュVSOPとカフェウォッカである。途中バーテンダーが一瞬顔をしかめていたので何事かと思ったがどうやらカフェウォッカを入れすぎていたようである。こちらとしては増える分には特に問題はないので気にしないことにした。あちらも元のしたり顔に戻っている。ここは触れないのがお互いの為だろう。
カフェウォッカは全く癖が無く,ただアルコールという享楽を味わいたいならば最もよい選択肢であった。
一方でカミュはその対極ともいうべきところに位置する。口に含んだ瞬間,まず舌の先を強烈な刺激が襲う。痛みといってもいいかもしれない。最初の一撃をもって初心者たるこちらの戦意を打ち砕かんとするような意思を感じるまでの強さである。
そしてそれが抜けると直後に芳醇な味わいがふんわりと口の中に広がる。フルーツの甘さが膨らみ,そして樽のウッディな香りがそれを下から支える。ほんの一瞬の刺激を抜けるとご褒美とばかりに最高の贅沢が味覚と嗅覚とを満たしてくれるのだ。これは良い文明である。もう一口含み,今度は冷え切った水でチェイスしてみると,風味の広がり方がより峻烈な,しかし軽妙なものへと変わる。この飲み方によって表情を変える巧緻さは酒というもののひとつの完成形であるとさえ感じられる。

 

もっと古いウイスキーなどを飲むつもりでいたがカミュで満足してしまった。試飲コーナーを後にして向かったのはレストランである。ここでもいろいろと酒が飲めるが,少々弱い酒を飲んでみたくもあったため,ウイスキーではなく敢えてシードルを選んだ。しかもスイートである。飲んでみたがただのリンゴジュースであった。
3%のアルコールはもはやアルコールと感じなくなっているらしい。これまでの酒の飲み方を考えれば当然の結果ではある。一緒に頼んだ鹿の塩焼きは臭みもなく柔らかくて旨かった。

その後ショップへと出向き,ウイスキーとVSOPの小瓶,アップルワイン,そしてシードルを自宅へと送り付けた。まだ足元はしっかりとしている。よし,飲める。小樽へ行こう。

 

かくして小樽へと向かうことにした。余市からは百人近い乗車があり,立ちながらの移動であった。午前中はかなり歩いたので少々堪える。
30分ほどで小樽に着いた。そして時間を潰し,17時きっかりに小樽バインへと踏み込んだのである。
頼んだのは甘口ワインの飲み比べである。何故かといえば,一番安かったからというのと,初心者に赤ワインはあまりよろしくないという事前情報(出所不明)を仕入れていたためである。
デラウエアが最も甘く,キャンベルアーリが最も渋く,そしてナイヤガラがその中間であった。甘い酒を好む自分としてはデラウエアが最も好みに合ったが,確かに肉と飲むなら甘くない方が望ましいのかもしれないとも感じた。この辺り,次々口に突っ込んでいたせいでどの味がどの味か混ざってしまって分からなくなっていたところも大いにあるため,再履修が必要であろうと考える。

これでもまだ酔わない。しかし下手に酔うと翌日のゼミ交流会に差し支えるのでこれくらいにしておこう。そう考えて札幌へ向かい,札幌二郎で初二郎を達成し,千歳のホテルで酎ハイとともに眠りについた。

 

まとめである。人生3度目の飲酒は様々な酒のちゃんぽんを執り行い,そして「ゆっくり飲めばなかなか酔わない」という当たり前の知見を得た。
摂取したアルコールの量自体は初回よりも多いはずなので,これで酒に対する通常以上の耐性を持っていることは分かったことになる。
次はやはり日本酒か,それとも焼酎か,と翌日の交流会がビールの店で行われるということを忘れて色々と考えていたことを今になって思い出した。
なんとも間抜けなことである。

 

ゼミ交流会の飲み会もおかしな出来事があったのだがそれはまた別の話。